薬物をやめてから過去を振り返ると、薬物を使っていた時期の記憶には、驚くほど多くの割合で薬物が入り込んでいたことに気づきます。
薬物を中心に人生が動いていたと言っても、決して大げさではありません。
私は旅行に行くときでさえ、「現地で手に入るか分からないなら、持って行った方が確実だ」と考え、薬物をトランクの中に忍ばせていたことがありました。
当然、捕まるかもしれないというリスクは分かっていました。
それでも持って行こうとしたのには、明白な理由があります。

当時の私は、薬物なしでは旅行を楽しめない状態になっていたのです。
旅行先の美しい景色や、美味しい食事、大切な人と過ごす時間だけでは満足できず、「薬物があって初めて旅行を楽しめる」と思っていました。
つまり私にとって、薬物は旅行を楽しむための必需品になっていたのです。
今現在、薬物を使用している人の中には、薬物をやめることに対して消極的な気持ちを持っている人もいるかもしれません。
「薬物のない人生なんて楽しいのだろうか」
「薬物が与えてくれる幸福感がなくなったら、何を楽しみに生きればいいのだろう」
そんな不安を感じる人もいるでしょう。
私自身もそうでした。
薬物をやめたいという気持ちがある一方で、薬物のない生活を想像すると、人生から楽しみがなくなってしまうような怖さがありました。

しかし、実際に薬物をやめてみると、その心配は少しずつ変わっていきました。
薬物をやめた後の人生には、薬物のない新しい記憶を増やしていくことができます。
そして、その記憶はとても穏やかで心地良いものです。
嘘をつかずに誰かと会える。
薬物を隠す必要がない。
誰かに怪しまれているのではないかと心配しなくていい。
作り笑いではなく、心の底から笑うことができる。
それだけでも、私にとっては大きな喜びでした。
薬物を使っていた頃は、何かに見張られているような気がしたり、何かに追われているような焦りを感じたりすることがありました。
いつ警察に捕まるか。
いつ家族にバレるか。
いつ大切な人との関係が壊れるか。
そんな不安を抱えながら生活していたのだと思います。
薬物をやめてから、その不安がない生活がどれほど心地良いものなのかを知りました。
旅行へ行っても薬物を持って行く必要はありません。
美しい景色を見て、美しいと思える。
美味しいものを食べて、美味しいと感じられる。
大切な人と話をして、その時間そのものを楽しめる。
そうした一つひとつの経験が、薬物のない新しい記憶として積み重なっていきます。
薬物をやめることは、楽しみを失うことではありません。

むしろ、薬物がなくても人生を楽しめる自分を、少しずつ取り戻していくことなのだと私は思います。
そしてこれから先、薬物のない記憶が増えていけばいくほど、人生の中で薬物が占めていた割合は少しずつ小さくなっていきます。
過去を消すことはできません。
でも、これから作る記憶は自分で選ぶことができます。
薬物をやめることは、これからの人生に薬物のない新しい記憶を増やしていくことでもある。
私は今、そのことを実感しています。
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